共感覚(Synesthesia)

  • 共感覚とは、ある感覚系から入力された情報が通常の感覚だけでなく別の感覚も不随意的に生じさせる現象である。
  • 共感覚には様々なタイプがある[1]。以下、誘因刺激 → 励起感覚で表記する。
    • 文字 → 色(色字共感覚: Grapheme-color synesthesia)
    • 音 → 色(色調共感覚)
    • 音 → 味
    • 匂い → 色
    • 痛み → 色
    • 音 → 匂い
    • 音 → 触覚
    • 順序概念 → 空間位置(ナンバーフォーム、空間的配列共感覚)
    • etc.
  • 共感覚の保有率[2]
    • 何かしらの共感覚を持つ割合は23人に1人(4.4%)
    • 色字共感覚は90人に1人(1.1%)で共感覚の中で最も多いタイプ

色字共感覚の主な特徴[1]

  • 自動性
    • 意識していなくても、勝手に文字に結びつく色が思い浮かぶ。
  • 一貫性
    • 文字と色のペアは、時間が経っても基本的には変わらない。
  • 具体性
    • 文字に感じる色はかなり具体的(例:漠然とした「赤」ではなく、「少し暗い赤」や「ピンクよりの赤」など)

主観的な色の見え方の個人差

  • 共感覚色の感じ方は大まかに分けて2種類[3]
    • 共感覚色を視覚的に捉えるプロジェクター
    • 共感覚色を連想的に捉えるアソシエイター

※ 濱田がこれまでに行なったインタヴュー調査では人によって詳細はかなり異なる印象がある。
例えば、ある共感覚者はプロジェクターように感じる文字もあればアソシエイターのように感じる文字もあることを報告した。

共感覚研究の意義

色字共感覚は、通常の物理刺激の入力を介さず、文字知覚によって色経験を生じさせる。
このことは、従来の色覚研究だけでは色知覚の仕組みの全てを説明できないことを示す。
したがって、色知覚の成立に必要な条件を理解するためには共感覚の研究も必要である。

私の研究の興味

・共感覚色はどのように選択・決定されるのか?

これまでの研究の概要をいくつか紹介

研究1
Hamada, D., Yamamoto, H., & Saiki, J. (2017). Database of synesthetic color associations for Japanese kanji. Behavior research methods49(1), 242-257. (First online: 07 January 2016). doi:10.3758/s13428-015-0691-z

  • 本研究では共感覚者一人一人に文字に結びつく共感覚色データを収集してデータベース化し、データベースの利用例を紹介した。
  • 先行研究では、主に英語圏の共感覚者を対象にしており、アルファベットと数字の合計 36 文 字につく共感覚色のデータしか集めることが出来ないという問題がある。
  • 本研究は日本語話者の共感覚者を対象にしてこの問題を解決した。
    対象にした文字種は、漢字、ひらがな、カタカナ、数字、アルファベットの5種であった。
    色データの収集には、色選択課題と色マッチング課題を用いた(図1)
  • データベースの使用例の一つとして、共感覚色の色分布の探索的解析を行なった。
  • 解析の結果、共感覚色は色空間上で満遍なく分布するのではなく特定の領域に集中分布すること、つまり「共感覚色クラスター」が形成されることが示された(図2)。
  • 共感覚色クラスターの存在は、人によって共感覚色になりやすい色となりにくい色があることを示す。
図1a. 色選択課題 
共感覚を持つ実験参加者は、共感覚色に最も近い色をマンセル色見本(1300色)から選択する。
図1b. 色マッチング課題 
共感覚を持つ実験参加者は、パッチの色()が共感覚色と一致するように調整する。
色調整はLab色空間にそって行われる。
図2. 共感覚者S1の共感覚色クラスター 
S1の共感覚色は特に黄色になりやすい。

研究2
Hamada, D., Yamamoto, H., & Saiki, J. (2017). Multilevel analysis of individual differences in regularities of grapheme–color associations in synesthesia. Consciousness and cognition53, 122-135. doi.org/10.1016/j.concog.2017.05.007

  • 本研究では、共感覚色の規定因の個人差が共感覚者の主観的経験によって説明されるのかを検討した。
  • 先行研究では、文字の形の類似性や文字の順序性が共感覚色の色度に影響し、文字の出現頻度が共感覚色の明るさに影響することが示されている。
  • しかし、それぞれの文字要因の影響度には個人差がある。この個人差に対して共感覚者の主観的経験の違い(プロジェクターかアソシエイターか)で説明できるかどうかを検討した。
  • その結果、アソシエイターであるほど文字の順序性と出現頻度の影響度が高くなった。
  • この結果は、文字要因の共感覚色への影響は主観的経験によって部分的に調整されていることを示す。

引用文献

  1. Cytowic, R. E., & Eagleman, M. D. (2009). Wednesday is blue: Discovering the Brain of Synesthesia. (サイトウィック R. E., & イーグルマン M. D. 山下篤子(訳) (2010). 脳の中の万華鏡―「共感覚」のめくるめく世界 河出書房新社)
  2. Simner, J., Ward, J., Lanz, M., Jansari, A., Noonan, K., Glover, L., & Oakley, D. A. (2005). Non-random associations of graphemes to colours in synaesthetic and non-synaesthetic populations. Cognitive Neuropsychology, 22, 1069–1085. doi:10.1080/02643290500200122
  3. Dixon, M.J., Smilek, D., & Merikle, P.M. (2004). Not all synaesthetes are created equal: Projector versus associator synaesthetes. Cognitive, Affective and Behavioural Neuroscience, 4(3), 335-343.
2021-07-14|
関連記事